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奪われたICを取り戻せ!

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ハイライト
ハイライト
私は、ゲームセンターもカードゲームにも無縁で、なんなら人よりゲームをしない少年だった。
下校してから、友達の家に集まって、マリカーやスマブラに興じることも、参加こそするが、あまり興味を持てなかった。
FFもDQもやったことがない、ジャンプもマガジンもサンデーも読まない。
かといって別に他のことをしていたり、勉強漬けということでもない。
そういうジャンルの人間だった。

大学への進学を機に上京した私は、まもなくして同じ学部の同期が、デスクにカードを広げて唸っている様を目にした。
彼は三国志大戦のデッキを考えていた。

「なにこれ、カードゲームかなにか?見たこと無いやつだね、どういうルールなの」

友達を作ろうと会話のキッカケにしたのが20%。
本当に興味があったというのが5%。
残りの75%は「大学生にもなってカードゲームですか」という小馬鹿にした気持ちだった。

彼は、これはテーブルに広げて遊ぶカードゲームではなく、アーケードゲームであることを説明してくれた。
意味がわからなかったし「ゲームセンターにいくのかコイツは」と小馬鹿度が増した。
カードゲームのことはともかく、彼とは、高校時代の部活動が同じだったりと共通点もあり、次第に仲良くなった。

それから間もなくして、大学の行事で池袋周辺に赴く機会があった。
帰路、ふと例のカードゲームのことを思い出した。

「今日はカードもってきてたりするの?ちょっとやってみせてよ(笑)」

小馬鹿にする気持ち100%である。
あれはどこだったか、池袋GiGOではなく、アドアーズだった気がする。
ゲームセンター自体に足を踏み入れるのが初めてくらいだったが、そこで三国志大戦を目の当たりにした。

衝撃の一言だった。その直感的操作方法、そのビジュアル、その戦略性。
彼がなぜこのゲームのカードを、やる予定もなかったはずなのに肌身離さずもっていたのか、そのすべてを立ち所に理解した。
これは絶対におもしろい。次元が違う。

彼が3戦ほどプレイする間に、私は彼を質問攻めにしていた。
興奮していた。鬱陶しかったろうが、説明してくれる彼もこころなしか嬉しそうだったと思う。
その日は時間も手持ちもなかったので、すぐにゲーセンを後にすることになった。
スターターを忘れず買い、電車の中でそれを開けながら、彼への質問攻めを続けた。(ちなみに呉スターターだった)
2007年1月、三国志大戦2の大型バージョンアップ(ver2.1)直前のことである。

それ以来、私の大学生活四年間の中心は三国志大戦になった。
ゲームを殆どしなかった青年に、三国志大戦はあまりにも刺激的すぎたのだ。
まともに勉強もせずプレイに明け暮れ、講義中は三国志大戦wikiを読んだ。
マキシィに登録して日記を書いたり、アーケードではなく何故かニュー速VIPの方にある三国志大戦スレに出入りし、少しおかしくも個性的な友人を増やした。そこでアダ名もつけられ、今でもその名で呼ぶ人は多い。

その年の冬、私はなんとか覇王になっていた。
三国志大戦3へのアップデートが告知され、期待が高まる中、私はなにより引き継ぎ称号が楽しみだった。
今でこそ、色々な獲得称号を選択設定することができるが、当時は何かしらの称号を持っていること自体が稀だ。
1から2への引き継ぎ称号か、大会の特殊称号(雲の上の世界)しかなかった時代なのだ。

最高到達位ではなく、最終日の位を参照して、引き継ぎ称号は配られることになっていた。
覇王からは「勇将」で、覇者であれば「良将」だ。
私は覇王だと言ったが、ギリギリの腕前だったので、プレイを重ねると覇者に落ちることもあった。
なのでアップデート前に覇王に戻せたところで、それ以上は控えるようにした。たしか一週間前くらいだったと思う。

丘ることを決めてからも、ゲーセンには通った。
友人に出会えれば観戦しながら駄弁ることもできたし、なんならCOM戦モードを触ったっていい。

アップデート三日前、その日は友人にも会えず、COM戦モードもつまらないときて、頂上を眺めていた。
隣の筐体では、初老の男性がプレイしていた。その男性とは顔見知りで、挨拶くらいは交わす仲だ。
常にニコニコしていて、気のいいおじいさんだ。いつも少し酒が入った状態でゲーセンにあらわれ、三国志大戦をしていく不思議な人だった。

やることもなく、筐体の側を離れてゲーセンをぐるりと一周。
幸か不幸か、私はゲームが好きではないので、三国志大戦以外に食指が動かない。
ゲーセンを後にした直後、君主カードを筐体に指したままにしてきたことに気づいた。
いまでこそaimeで置き忘れはあまりないが、刺して読み込ませる君主カードは置き忘れることが多々あったのだ。
すぐに気付けてよかったと、筐体前に戻ったが、君主カードが見当たらない。
例のおじいさんに声をかけた。

「俺の君主カード見ませんでしたか、緑のだったんですが・・・」

「ぇー!あれハイライトさんのだったんだ!」


ジジィの話はこうだ。
私が筐体を離れた後、小さな男の子がやってきて、ボタンやらなにやら触っていた。
そうしているうちに、残っていた君主カードを見つけたのだろう。
男の子が君主カードを手に取り眺めていたので、引き継ぎ後の破棄カードだろうと思ったジジィが、その子に気を利かせて「それ持って帰っていいよ」と言ったというのだ。

頭の中が真っ白になった。
最悪だったのは、.netに未登録で再発行という手段がとれないことだった。
数ヶ月間・数百戦の思い出と、楽しみにしていた引き継ぎ称号を一挙に失ったのだと思った。

これから新規プレイをしても到底間に合わない。
あんなに楽しみにして、早くその日になれと待ち望んでいた三国志大戦3が、わずか三日後であることを恨んだ。

翌日から、俺はまったく大学に行かなくなった。
失意が理由ではなく、ハイライトを取り戻すためだ。
ゲーセンの開店から閉店まで、毎日張り込みをして、男の子を是が非でも見つけてやる覚悟を決めたのである。
幸い、男の子の背格好はなんとなくわかっていた。
自分が筐体を離れる前から、辺りを彷徨いていたので、私の印象にも残っていたのである。

ゲームをするでもなく、何時間もゲーセンに居続け、時折巡回した。
とても小さな男の子だったので、親に連れられていたのはまず間違いないと思われた。よってファミリー向けのコーナーは入念に見て回った。
清潔感がなく、生気が感じられない表情で、ファミリーコーナーを徘徊する大学生は、さぞ不審だったに違いない。

2007年12月13日、三国志大戦3が稼働した。
私は新規ICを作り、君主名を同じ「ハイライト」としてプレイをはじめた。
新カード、軍師カードなどの新要素に些かの興奮はあったが、ハイライトを失ったショックは、すぐに癒えることがなく、プレイをしていても空虚感に苛まれ続けた。
そんな風だったので、私はプレイもそこそこに、常に同じゲーセンで張り込み巡回を続けた。

そして一週間が過ぎた頃、ついにあの男の子が現れた。

「お父さんかお母さんいる?」

現れた父親に事情を説明するが、明らかに怪訝な表情をされた。
身なりの悪い不審な大学生が突然、小さな息子を捕まえて言ってきたことが、カード一枚のことなのだ。
おまけに一週間も前のことだという。
私は軽く対応されたくない一心で、息子さんが持ち帰ってしまったカードは自分にとってとても大切なもので、価値があるものなのだということを力説した。
とにかく必死だった。
同期を偏見で小馬鹿にしていた私が、今はそのゲームのカードのことで泣きそうになっていた。
なんとか家で探してくれる約束を取り付け、電話番号を交換した。

3日後、君主カードは奇跡的に(!)発見され、手元に帰ってきた。
受け渡してくれた父親は、やはり怪訝な表情をしていたが、もはやどうでもよかった。

良かった!良かった!良かった!
すぐ.netに登録し、もう二度と手放さないと誓いつつ、筐体へ直行。
引き継ぎ称号「勇将」を手に入れることができた。

その後ハイライトICは、稼働最終日まで有り続けた。
三国志大戦4においても、称号「三国勢」のコードを、ハイライトICのもので獲得しているので、脈々と引き継げていると言っても過言ではないと思う。



「三国志大戦に関する思い出」と言われると、他にいくらでもあるのだけれど、どうしてもこのエピソードが最初にうかんでしまう。
それくらい精神をすり減らす出来事だった。メインICを大切にしよう。
更新日時:2020/06/23 19:22
(作成日時:2020/06/01 20:34)
コメント( 6 )
6件のコメントを全て表示する
ハイライト
ハイライト
2020年6月2日 18時17分

>楊狐さん
つけてこそいませんが「三国勢」は思い出の引き継ぎというか、旧作からの地続き感を得るために重要だったなと思います
大戦4初日に「引き継ぎ要素それだけかよー!!」って思ったのは内緒

>うさまるさん
本当に良かったです!
パック排出と君主カード投入口がそれぞれ左右にあるもんだから、パック取って剥いてしてると忘れてしまうのですよね

>緑龍さん
盗まれてはヤバすぎる、昔はカードの紐付けもなかったから、その手の盗難はけっこうありましたよね
ちなみに自分は4になってからデッキケースごと忘れて、aimeの移行対応をすぐにしなかったもんだから、将器3揃いなんかを根こそぎトレードで盗まれ全財産失ったというw
aimeだけ新品に引き継ぎして戻ったので、武将カードは頑張ればなんとかなると、それほどショックはうけませんでしたが汗

楊狐
緑龍
ままんぱぱん
ままんぱぱん
2020年6月2日 23時51分

いいお話でした。文豪確定!

ハイライト
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2020年6月3日 17時12分

>ままんぱぱんさん
コメントありがとうございます
一年に一本しか書かない文豪とは・・・?

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