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三国志大戦というゲームの1弾R曹仁について

by
紫音
紫音
曹仁。武力7知力5征圧2無特技。

無特技。



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世間一般において、曹仁はキャラクターとして、かなり特殊な立ち位置である。というのも、彼の個性に関しては大きく矛盾する2パターンがあるからだ。
・軍事的に非常に強く、特に騎馬隊を率いた遊撃に長け、様々な名将たちと荊州を争奪した猛将(正史)
・負けも多いが時に曹操の力を借りながら荊州を守った守勢の名将(演義)


様々な三国志作品において、彼はどっちに寄っているかで非常に印象が変わる。
そして三国志ゲームの大手がそのイメージを確立させたこともあって、守勢の名将のイメージで語られがちなのも事実だ。
おかげで三国志のゲームでは大体、巨大な盾を持った重鎧の堅物みたいな描き方をされる。曹仁テンプレートである。

まあ、守りで頑張った武将っていうのは勿論、正しいんだけどね。

***

で、今日は三国志大戦の1弾曹仁について、話をしていきたい。

彼もまた、曹仁テンプレートに乗っ取った、巨大な盾を持つ重鎧の猛将──に、見えなくもないのだが、その実態は凄まじく込み入った形になっている。

まず、彼の前半戦に関しては演義準拠の部分が多い。
新野の戦いでは徐庶にぼこぼこにされるところが完全再現されている。これがあると正史派の曹仁ファン的には納得いかないだろう。
官渡の戦いの裏で劉備と戦っていたという結構マイナーなところも描いてくれているのだが、残念ながら劉備に翻弄されて右往左往するところを見せられるだけである。史実は袁紹の別動隊を曹仁が潰しまくるから袁紹が最終的に別動隊を諦めたりしているのだが。

ただこのあたりには明確に面白い特徴がある。それは、曹仁が尋常じゃなく「猛進大好き」である、ということだ。
ことあるごとに猛進猛進と、とにかくうるさい。猛進できないと非常に不満を募らせ、その後の戦で血気にはやりへまをするような描写もある。早い話が、三国志大戦の義勇ロードにおける曹仁の負けの原因は大抵このあたりに集約されている。また、シリアスなシーンのみならずコメディタッチのやり取りにもこの猛進がよく使われるため、曹仁の人間らしさ、愉快さを描写するのにも一役買っている。

加えてこの猛進という要素、言ってしまえば「攻め」の要素であり、実は演義的なストーリー回しをしながらも、”守備が本懐の人間ではない”ということをひたすら読者に刷り込ませてくる。ここら辺は多少、正史的とも言えるかもしれない。

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さて、後半部分に関してだ。これが三国志大戦の曹仁に関する一番異常な部分と言っていい。

後半──あるタイミングからの曹仁は、演義要素が嘘のように抜け落ちる。
そのタイミングがどこかというと、そう、江陵の戦いである。


演義の江陵の戦いを覚えている人はいるだろうか? 演義における被害者ランキングを作ったら上位十傑には入るであろう、曹仁と周瑜の戦い。この戦いでは周瑜は周瑜で諸葛亮や劉備に翻弄されてしまうし、曹仁は曹仁で周瑜が倒せず、曹操の残していった謎の袋(?)から出てきた策に頼ることになる。何してるんだよこいつらは。

ところが、三国志大戦の義勇ロードにはこの要素が一つもない。
一つも。

新野の戦いを採用し、曹仁に負け戦を多く経験させておきながら、三国志大戦の曹仁はここから一気に反転する。三国志大戦の義勇ロードでは、曹仁は曹操の策に頼ることもないし、諸葛亮なんて名前の一つも出てこない。
それどころか、正史ですら「曹仁軍に流れ矢を受けた」「一年後に病死した」と明確な繋がりを示さない周瑜の死因について、義勇ロードは「流れ矢を受けた重傷のまま戦い続けたために、帰らぬ人となった」としか受け取れない描写をしている。この曹仁、直接的に周瑜の死因となっており、実は正史より強い。

そしてこのアンバランスが、本当に三国志大戦の曹仁という人間を魅力的にしている。
正史への描写の転換が発生しても曹仁の性格は変わらないために、彼は正史さながらの凄まじい活躍をしつつも、『猛進大好き、守りは好まない、失敗も多いけど何度でも立ち上がって頑張る武将!』的な人間臭いノリを少なからず残している。また、この後に続く馬超との戦いで見せる曹仁と曹洪の軽快なコメディタッチのやり取りは、若いころの愉快な掛け合いとなんら変わることはない。これは前半部分がなければありえない描写だった。
次回作の曹仁を思い起こしてほしい。あれが完全正史準拠(多分)の曹仁である、もう全然違うのだ。

あの曹仁もボケやってる? 蜜柑食ってる?
そうだね。


……閑話休題。

これにより三国志大戦の1弾R曹仁は、最初は弱いけど類まれなる才覚を持ち、凄まじい成長を遂げて友情努力勝利する、ついでにギャグシーンも担当可能な、ある意味少年漫画の主人公キャラのような扱いとなっている。
ここまでうまく演義と正史のハイブリッドに成功し、独自の魅力を持った曹仁は、他には見たことがない。確かに完全正史準拠の完璧超人は好きだ、演義のちょっとお間抜けな感じも嫌いじゃない、だが三国志大戦の曹仁は唯一無二なのだ。ここにしかいない、エクストリーム主人公曹仁なのである。


***

とまあ、このゲームの曹仁はやべえんだという話をしたところで、彼のキャラ付けに関してはどうしても最後まで分からなかった謎があるので、その話もしよう。

というのも、曹仁は曹操に対して敬語なのである。

だからどうしたと思う人は、以下の一覧を見てほしい。

夏侯惇→曹操 ため口
夏侯淵→曹操 ため口
曹洪→曹操 ため口
曹仁→曹操 敬語


なんでや!!!!!!!

俗に曹魏四天王と呼ばれる四人のうち、曹仁だけが曹操に敬語である。
一番あり得るのは、味方なら誰に対しても敬語を使う陸遜のようなパターンだが、これはすぐに否定される。曹仁が義勇ロードで敬語を使うのは、曹操、夏侯惇、夏侯淵の三人に限られるのだ。

なんでえ???

この問題はずっと私の中で疑問だった。しかし、「曹仁の演義要素がいきなり江陵の戦いから排される」という上述の話と考え合わせると、一つの可能性が出てくる。義勇ロードにおいて、曹操と曹仁は親戚関係ではなく師弟関係として描かれているのではないか、という考察だ。

そもそもにしてこれは本当に作った人すげえと言うしかないことなのだが、曹仁がいきなり江陵の戦いから演義要素を取り払っても違和感がないように、義勇ロードはかなり伏線を張りまくっている。その中には曹操が非常に曹仁の才能を信頼している描写があったり、また戦馬鹿の描写の中にも民や土地のことを考える一面があったりと、「今はまだ未熟で猛進しすぎちゃうこともあるけど、潜在能力が凄いんだよ」という風に頑張って描いているのだ。

しかし潜在能力を開花させるには導いてくれる人が必要だ。曹仁は負けから学び続ける描写もあるとはいえ、それだけでは足りないだろう。
その導き手が曹操であり、曹仁と曹操は一種の師弟関係であるからこそ、師匠に対する態度として敬語を使うキャラ付けがされたのではないか。

──という考察をしてみたが、真相は闇の中なのだ。すまない。

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それはそれとして、なんで江陵から演義要素は排されたのだろう? というのも、最後に残った大きな謎である。

というのも、思い出してほしい。周瑜の撤退台詞は「天よ、何故──!」である。
流石にこれは元ネタがないとは口が裂けても言えないだろう。そう、かの有名な、「天は周瑜を地上に生まれさせながら、何故諸葛亮まで生まれさせたのか」とかなんとかのあれ。演義周瑜の死亡シーンである。

さらに言えば周瑜は諸葛亮に赤壁を使うことで特殊台詞がある。
台詞設定での段階では、演義的な関係性、あるいは演義的な死因が入ってくる可能性は零ではなかったはずだ。

しかし、実際の義勇ロードの描写は真逆である。周瑜の死因は曹仁から受けた矢傷で、彼は死の間際一切諸葛亮について言及しない。先ほども述べた通り、義勇ロードにおいて周瑜を殺したのは間違いなく曹仁なのだ。

なんで?

非常に不思議である。今作の曹仁を思い浮かべてほしいが、彼が周瑜にしてやられてしまい曹操の策を頼るシーンがあったとしてもぶっちゃけそんなに違和感はない。──実際徐庶にめっこめこにされ、劉備には翻弄され、負けから経験を得て少しずつ強くなる描写の上で、周瑜にも負けながらも成長し、樊城にてようやく名将とするシナリオは成立したはずだ。

しかし義勇ロードはそうなっていない。あくまで曹仁と周瑜を対等な重鎮同士、非常にレベルの高い戦いであると描写した。

スタッフの誰かがゴリ押したんだろうか。

***

そんなこんなでいろいろと書いてきたが、三国志大戦の曹仁は、曹操との師弟的な文脈を追加されたことにより演義と正史の間が巧妙に繋がり、人間臭く時に愉快だがが非常に強くなる主人公キャラとして描かれている、というのが私の結論である。

そしてその総決算が行われるのは勿論樊城の戦いだ。ここに至ると当然曹仁は名将扱いを受けており、関羽との堂々たる戦いぶりは非常に頼もしい。一方で前半から引き継いできた人間臭さの部分に関しても垣間見え、満寵の前で不安そうな顔をして窘められる一幕もある。強大な敵に対し己を鼓舞しながら、期待に応える曹魏の猛将。……贔屓目が入ることを承知で聞いてほしいが、正直な話、樊城の戦いは関羽側が悪役に見える。

そして最後の最後に、曹仁は「猛進」し、関羽を打ち破る。

──「若き頃のように……今は猛進する時だ!!」

ボイス付きのこのセリフ、声優さんの演技も相まって本当に素晴らしい。
彼の愛すべき欠点、もしくは周囲が苦笑する癖として描写されがちだったその「猛進」が関羽を打ち破るさまは、まさに主人公だ。

だってそうじゃん。
主人公が、一番最初の必殺技でラスボスを倒す。
熱いに決まってるんだよな。


***

曹仁の描かれ方はこのように、非常に複雑で特殊だ。彼に関して演義準拠、正史準拠のどちらかと言われたら「三国志大戦オリジナル」と言いたくなる。
三国志大戦の曹仁にほれ込んでから様々な作品で曹仁に触れてきたが、このゲームの曹仁は凄い、という思いは日々強くなるばかりだ。

だから、この文章の締めくくりはただ一つ。

1弾R曹仁を生み出してくれてありがとう、三国志大戦スタッフさん──












──エラッタで特技「勇猛」ください。
作成日時:2025/01/11 02:19
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