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【赤壁の戦い】 三国志演義が創ったフィクション (その3)

by
紫苑
紫苑
前回の続きです。

前回までに6つのうち5つを紹介して、最後の一つは



6【義釈曹操】



関羽が敗走中の曹操を捕らえず釈放した場面です。



このフィクションのヒントになったのは、『山陽公載記』(さんようこうさいき)。
この中に、曹操は

「劉備はわしと同等じゃが、ただ計略を考え付くのが少し遅い。先に素早く火を放てば、我が軍は全滅だっただろう」

と記されています。

演義の作者・羅漢中は、この敗走中なら

①正史上、関羽と曹操は200年以降は対面していないけど、曹操軍が敗走して行くルートを考慮すると対面しようと思えばできる
②曹操軍の軍勢は寡兵なので、関羽の軍勢が整っていれば勝てる


情勢なので設定したのでしょう。





ところで、なぜこのフィクションを単独にするの?
と思う方がいらっしゃるでしょう。

このフィクションは、ほかのフィクションと違って大きな意味合いを持っているのです。



まずは「演義」という言葉を一文字ずつ分けて調べてみましょう。

演義の「演」は辞書で調べると、「おしひろめる」という意味。
これを簡約すれば、「(三国志を通じて)義を広める」となるのです。



つまり、曹操に対して「千里行」(これも創作)で借りがあると思った関羽が釈放するこの場面が演義の真骨頂、言い換えれば最も読者に伝えたかった場面だったのです。



そして、更に抑えて置きたいポイントとして、もし関羽が曹操を逃したら、軍法に則り処罰(死罪)を受ける誓約書に署名した点です。

関羽にとって曹操は、最大のライバルであり、多大な恩義を抱いた存在・・・

軍令及び軍法は厳しく従うのは当然のこと。
しかし、死を覚悟しても義を大事にしないといけない。

このような葛藤の中で揺れ動く、そんな関羽の姿にはとても心打たれる名場面の一つですね(⁠^⁠_⁠^⁠)





この場面を中国近代文学の祖、魯迅(代表作に『故郷』、『阿Q正伝』など)は

「赤壁の戦いのクライマックスは黄蓋・周瑜の火計ではない。関羽が曹操を逃した場面が本当のクライマックスなのだ」

と演義を高く評価しているのです。








以上となります。

明日は対戦動画の解説を中心して投稿します。
更新日時:2023/01/13 23:56
(作成日時:2023/01/13 23:52)
カテゴリ
雑談・雑感
コメント( 4 )
4件のコメントを全て表示する
紫苑
紫苑
2023年1月14日 18時58分

>うさまるさん
三国志は人としての道理を示す観点からみても、有効な教材ですよね(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)

みいけん
みいけん
2023年1月15日 13時38分

赤壁の戦いは、立派な舞台シナリオなんですよね♪

娯楽が劇や舞台の頃から、現在の映画や漫画に至るまで、練りに練られ、1つの台本が出来上がってしまった感じですね。
勿論、ベースは演義にありますが・・・
演義自体が、大衆向けに作られた事からも作者の巧みさが分かりますね♪

紫苑
紫苑
2023年1月15日 19時13分

>みいけんさん
何しろ、演義は水滸伝や西遊記と並ぶ優れた小説ですからね。
どれぐらい精巧なのかは、また後日投稿します。

みいけん
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