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一つは嘆きの少女の物語。
少女は幼き頃から富と名声を与えられた。
少女の手に入らぬものなどこの世になかった。
ある日少女は最愛の祖父を亡くす。
信じた部下の裏切りと、壮絶な戦火の中で、祖父の最期は堂々たるものだった。

嗚呼――少女は嘆く。 

――『魔王ノ血ヲ継グ少女』その1

少女は、敬愛する祖父を守れぬ弱さを嘆いた。
少女は、己の無力さを嘆いた。
少女は、祖父を弔うことすら出来ぬ己の非力を嘆いた。
嘆き、嘆き、嘆き――いつしか少女は路端に倒れた。

その時少女は、とある君主の声を聞いた気がした。 

――『魔王ノ血ヲ継グ少女』その2



一つは報復の女傑の物語。
戦場で剣を抜く者は呪われるという。誰かを殺し、また別の誰かに命を狙われる呪い。
だが、真の意味で呪われていたのは、その女傑自身であった。
戦場に立つ度に生きたまま身を削ぎ落とされるような激痛が走る。

――『紅き誓い』その1

そうした彼女の苦悶が、怨嗟が、絶望が、彼女の心を黒く蝕む。
北の地を守る女傑は、錦の鬼馬を退けた。

『終わらない復讐、君はこの呪いを受け入れるのかい?』
「…嘗めないで」

果ての無き苦痛の中、その日女傑は一人の君主に出会った。

――『紅き誓い』その2



一つは詩う才女の物語。
才女の名は琰。
彼女は博学で誉れ高く、弁術に巧みで音律に通じ、数奇な運命を辿る。
詩――それは戦場で綴られては戦士を鼓舞させる。
彼女は、以来人を鬼へと変える巫女であり、才ある学者ではなく勝利の「道具」である。

――『望郷の念と才女の願い』その1

またいつか故郷に還っては、残した子供たちと共に歌い踊りたかった。
そして…綴る詩はもういらない。

『おはよう。もう一度、詩を綴り、琴を奏でてみないかい?』

聞こえたその愉快げな君主の声は、彼女の心に甘く、心地よい琴の音の様に響いた。

――『望郷の念と才女の願い』その2



一つは祈りの姉妹の物語。
ある小国に二人の美しい姉妹がいた。
それは武将というには些か頼りない、流星を呼ぶ巫女。
二人は若き小覇王と孫呉の大督の元で幸せに暮らしていた。
主と共にこのままいつまでもこの国を見守っていきたい。
そんな姉妹の幸せは、ある日突然崩れ去った。

ーー『星に願いを』その1

小覇王の快進撃を疎んだ刺客たちの襲撃により、王は深き傷を負う。
ついに王は倒れ、大督も後を追った。
姉妹はその力で、主人を支えられなかった己を悔やむ。

『君たちは、“星を呼ぶ巫女”であることを続けるのかい?』

是非も無い。
主を亡くした姉妹は、無意識にそう答えていた。

――『星に願いを』その2




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